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最高裁判所第一小法廷 昭和25年(オ)59号 判決 1951年3月08日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について。

第一点 訴願法には所論のように訴願を却下すべき場合を規定しているが、訴願人の申立を容れない場合には棄却すべしとも又は却下すべしとも規定してはいない。民事訴訟法におけるように却下と棄却の区別が明確に定まつているわけではない。原審において被上告人は訴願が失当であるとの裁決があつたことを主張し、上告人は訴願却下の裁決のあつたことを認めているから、原判決は争がないとしたのである。原判決の意味はその判文自体から上告人が被上告人の訴願を容れなかつたことについて当事者間に争がないとの趣旨であることは明らかである。用語が却下であつても棄却であつても判決の趣旨には変りはなく本件判決の内容実質に何等の影響を及ぼすものではない。論旨は理由がない。

第二点 原判決には所論のように「右農地に対する本件計画は不当であつて、従つて被控訴人の為した本件訴願却下の裁決は取消を免れない」と言つていることは事実であるけれども、それは行政処分の内容が違法ではないが不当であるから裁決を取消すと言つているのではなく、「本件(一)乃至(三)の土地は小作地にあらざることが明白であるから」本件買収計画を違法として取消したことは判文上明白である。論旨は、それ故に採るを得ない。

第三点 本件(一)乃至(三)の土地の買収基準たる昭和二〇年一一月二三日現在において施行されていた農地調整法九条一項及び三項は、農地の賃貸人が賃借人の承諾なくして一方的に賃貸借解約を為す場合の規定であるから、双方の合意によつて賃貸借を解約する場合には適用がないものと解するを相当とする。従つて、合意解約により賃貸借の終了した本件の場合においては、所論のように「正当なる事由」の有無を判決上明らかにする必要もなく、また所論のようにその解約につき予め農地委員会に通知したかどうかを釈明する必要もないのである。

第四点 本件(一)乃至(三)の土地は、自作農創設特別措置法三条一項一号に基づき買収計画がたてられたものであることは、原審において上告人の主張するところであり、これに基づいて買収計画の違法を認定した原判決は正当である。所論のように同条五項二号による買収計画は原審において全く主張されていないのであるから、その適法性を主張して原判決を非難するわけにはいかない。論旨は、それ故採るを得ない。

第五点 所論は、結局原審の裁量に属する事実の認定又は証拠の取捨判断を非難するに帰し、法律審に対する適法な上告理由として認め難い。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、全裁判官一致の意見によつて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 真野毅 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 岩松三郎)

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